植物系食品の機能性監修:帝京大学薬学部教授 山崎正利

これまでの研究により食品には様々な機能性があることが知られています。ここでは植物性食品と免疫系とのかかわりについてバナナを例にして御紹介します。

栄養と免疫

栄養素は身体をつくる素材、身体を動かすエネルギー源として私たちが生きていく上で必要であり、ものを食べることは通常、栄養素を主に考えられています。しかし、食事をすることは、単なる栄養素の補給に留まらず、免疫系をしっかりさせる、あるいは記憶をしっかりさせるなど、生きていく上での生理作用に非常に大きな影響を及ぼしていることがわかってきています。

栄養素の種類は、100種類前後と言われていますが、私たちが食べている食品の中には栄養素以外の非栄養素が非常にたくさん含まれており、おそらく10000種類ぐらいあると考えられています。ところが、この非栄養素の働きは、今までほとんどわかっていませんでした。非栄養素は、ファイトケミカルとも呼ばれ、大きく6つのタイプに分類されます。良く知られているポリフェノールもそのひとつですが、赤ワインに含まれるアントシアニンやお茶に含まれるカテキンなど、非常にたくさんの種類があります。栄養素は短い時間で生命活動に影響があるのに対し、非栄養素は、長い時間をかけて影響を与えること、長い生命活動の中で非常に大きな意味を持っていることがわかってきました。

フィンランドの統計ですが、フラボノイド(非栄養素)の摂取量と冠動脈疾患になるなりやすさ[1]との相関をみると、βカロテンやビタミンCといった栄養素をしっかり摂っていた人は確かに冠動脈疾患になりにくく、フラボノイドをしっかり摂っていた人たちは、さらに冠動脈疾患になりにくいという統計が出ています。

非栄養素にはいろいろな働きがありますが、単純化すると、抗酸化作用[2]、解毒酵素誘導、免疫の制御といった三つの働きに分けられ、このような働きが積もり積もって、長い時間をかけて私たちの生命活動に影響を与えていると思われます。私たちの血液中には、赤い細胞、白い細胞があり、白い細胞の白血球が免疫機能に関係しています。白血球には、リンパ球やマクロファージといった細胞があり、白血球は全ての動物が持っている細胞で、ないと生きていけません。白血球は、体の中で唯一、外からの異物、あるいは体の中の異物(傷ついた細胞やいらない細胞)、さらには酸化した脂質などを処理してくれる細胞で、非常に重要な細胞です。

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植物性食品による免疫活性

白血球の働きを高めるためには、白血球の量と質を高めることが大切です。マウスでの研究結果ですが、普段私たちが食べている食品で白血球の数を増やす力の強さをみたところ、調べた果物の中ではバナナが一番で、リンゴ、キウイといった順になりました。

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また、白血球の質を高める、白血球を活性化する力[3]をみると、キャベツやナス、ダイコン、ホウレンソウといった野菜で強いことがわかりました。緑黄色野菜よりも淡色野菜は劣っていると思われがちですが、白血球の質を高める点からみると優秀だと言えます。果物では、バナナ、スイカ、ブドウ、ナシの順で強いことがわかりました。つまり、バナナは白血球の数を増やす力も、質を高める力も非常に強いことがわかります。

さらにバナナは、熟度によって免疫活性が変化し、黄色のバナナより、シュガースポット[4]が出たバナナで免疫活性が高いという結果が出ています。黄色い食べ頃のバナナでも他の果物より活性が強いのに、熟したバナナではさらに強くなることがわかりました。 栄養素以外の物質でこういった免疫を活性化する作用が起きているわけですが、どういった物質かということで、ひとつの大きなくくりとして果物に含まれるポリフェノールの量 [5] を調べてみました。結果、キウイ、バナナ、グレープフルーツ、マンゴー、ブドウ、オレンジ、パパイヤ、パイナップル、といったような序列になり、バナナは、果物の中では、多量の非栄養素(ポリフェノール)を含んでいることがわかります。

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果物摂取の現状

最近、果実や野菜を食べる人が減っています。果物を敬遠する理由の1つとして、高エネルギーということが言われますが、そんなことはありません。様々なお菓子は平均すると100gあたり400~500kcalあります。ところが、果物は平均47kcal、バナナは86kcalです。また、果物の果糖が糖尿病によくないとも言われますが、果物を食べて、その果糖が良くないという結果はほとんどありません。果物を1日平均して200g摂ると、ビタミンやミネラル等のいろいろな栄養素の補充は非常によくできるのに、ナトリウムやエネルギーの摂取は非常に低く抑えられることができます。また、栄養素の充足度が高いだけでなく、栄養素以外の非栄養素の供給食材としても非常に重要です。

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白血球はいろんな免疫機構を担っていますが、狭い意味の免疫機構だけでなく、いろいろな病気と接点を持っています。薬は1対1の対応しかできませんが、白血球を刺激すれば、脳から足の先まで分布しているため、ひとつが良くなると他も良くなるように、神経系、ホルモン系と密接に連動しています。食を通じて免疫系をしっかりさせるということは、他のシステムへの影響も非常に大きく、身体全体を良くすることが期待できます。
医療がどんなに進歩しても体を支えているのは食です。

注釈

  1. ^ [1]
  2. ^ [2] 活性酸素を消去する働きを抗酸化作用といいます。抗酸化作用のある物質には、ポリフェノールやビタミンC、ビタミンE、β-カロテンなどがあります。
  3. ^ [3]
  4. ^ [4] バナナが熟成すると皮に現れてくる茶色い斑点のこと。これがでてくると、糖度が増して甘くなっていることが分かるので、シュガー(甘い)スポット(目印)の名前がついたといわれている。
  5. ^ [5]