輸入青果物の安全性監修:食品科学広報センター代表 正木英子

消費者の意識調査によると食品の安全性に対する不安要因として、「輸入食品」や「農薬」と回答する割合が最も高くなっています。そこで、輸入青果物の残留農薬を中心に、輸入食品の安全性の確保はどのように行われているのかを御紹介します。

検査体制

輸入食品の安全性の確保はどのように行われているのでしょうか。輸入食品が日本に到着すると、輸入者はまず検疫所(全国に31箇所)に届出書を提出して審査を受けます。この時に輸入が禁止されているものでないか、海外でトラブルが発生していないか、製造方法、食品添加物の使用状況などが厳しくチェックされます。

検疫所で食品衛生法に基づき、適法(合格)と判断されれば輸入が許可されますが、書類審査だけでなく、年間計画に基づく抜き取り検査も行われます。これは「モニタリング検査」といい、検査の結果を待たずに輸入することができます。しかし、不合格の場合は、国内に流通している違反品は追跡されて、回収、廃棄、積戻し等の措置がとられます。モニタリング検査は、食品の種類ごとに輸入量や違反率などを考慮し計画的に行われる検査で、この検査で違反が見つかると、次回の輸入から検査率がアップし、監視が強化されます。

さらに、モニタリング検査で違反が2回以上見つかった場合や輸出国の情報から安全性に疑いのある場合は、厚生労働大臣による検査命令が輸入者に出され、輸入の都度検査を実施することが義務付けられます。この「命令検査」の場合、検査結果が出るまで貨物は留め置かれ、検査に合格して安全が確認されるまで輸入・流通が許可されません。また検査費用は輸入者の負担となります。検査に合格すると、通関手続きを経て国内流通します。 国内では、輸入品、国産品を問わず、地方自治体などによる抜き取り検査が行われます。輸入農産物の場合、港や空港の段階で審査・検査が行われ、市場に流通した段階でさらに地方自治体による検査が行われることになります。

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残留農薬基準

不安要因にあげられる割合が高い農薬ですが、農薬とはどんなもので、安全性はどのように確保されているのでしょうか。農薬は、病害虫や雑草の防除、作物の成長調整など、農業の生産性を高める目的で使用されます。使用された農薬は、雨風により洗い流されたり、土壌中で分解されたりして徐々に減少していきますが、農産物にごく微量、残留することがあります。そこで、食品中に残留した農薬が人の健康を損なわないように「残留農薬基準(*1)」が定められています。

残留基準を定める際には、まず、厚生労働省が、開発メーカーから提出された安全性に関する試験データ及び、国内外のその農薬に関する情報を収集して、食品安全委員会に健康影響評価を依頼します。食品安全委員会では、動物を用いた各種毒性試験の結果から何ら毒性を示さない用量(無毒性量)を求め、これに1/100の安全係数を掛けて、一日摂取許容量(ADI)(*2)を設定します。ADIとは、人が一生涯にわたって毎日摂取しつづけても健康に何ら悪影響を及ぼさないとされる量です。 このADIをもとに、厚生労働省では、残留農薬基準(*1)を定めます。国民平均だけでなく、幼小児、妊婦、高齢者の食品摂取量も考慮して、食品から摂取する農薬がADIの80%以内となるように決められているので、子どもにはどうなのかといった心配はありません。 2006年5月29日から ポジティブリスト制度が施行されました。施行以前は、基準値がないものは販売禁止などの規制できず、規制するものだけをリスト化して違反品を処罰していました。したがって、基準のないものは実際には規制できなかったため、輸入食品が年々増加する中で、輸入食品の残留農薬に関する消費者の不安の高まりなどもあり、ポジティブリスト制度が導入されました。施行後は、農薬等(農薬、動物用医薬品、飼料添加物)が一定量を超えて残留する食品の流通は原則禁止です。使っていいものだけ基準を設け、基準を超えたものは違反となります。基準のないものに関しては一律基準(原則で0.01ppm)が適用され、対象外とする物質(重曹やレシチン等65物質)を除いては何らかの基準が設けられていることになります。

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*1 農作物に残留した残留農薬が人の体に害を及ぼすことがないように、上限値を定めたものが「残留農薬基準」です。基準値は「ppm(=mg/kg)」という濃度単位で表されます。例えば1ppmの基準値というのは、1kgの食品中にある農薬等が1mg以下でなければならないということを表しています。

*2 生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても安全とされる量

残留農薬の実態

仮に、わずかに基準を超えた食品が市場に流通してしまった場合、それを食べてしまったら病気になるのでしょうか。そんなことはありません。先程申し上げたような手順で基準値が定められていますので、ADIを超えることはないと言って良いでしょう。また、調理の過程で残留する農薬の量がかなり減少します。洗浄や調理による残留農薬の減少率を見てみると、農薬ごとに調理方法の違いにより減少率が異なりますが、水洗いだけでもかなり落ちることがわかります。

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バナナの場合、軸に農薬が多く残っているから端を切って食べると良いというようなことが言われることもあります。しかし、東京都の研究機関が、バナナを「軸に近いほう」、「真ん中」、「先端のほう」の部位別に切り取って検査を行った結果では、1 本ごとに、また同じ1 本でも部位によりかなりばらつきが見られ、軸に残りやすいということはありませんでした。バナナの残留農薬は、普段は食べることのない皮も含めた全果で検査されており、農薬が検出されたとしても微量で、身体に影響がないとされる量です。