更年期を乗り越えるヒントは、1日1本の「バナナ習慣」

「最近、なぜか疲れがとれない」「わけもなくイライラする…」。その不調、更年期のサインかもしれません。
多くの方が心身の変化を感じ始める更年期。しかし、具体的にどのような悩みがあり、どう向き合っているのでしょうか。

最も多い更年期の悩みは男女ともに「疲れやすさ」

当組合が40~60代の男女各600名、計1200名を対象に実施した調査では、更年期世代が自覚している症状は、男女ともに「疲れやすい」がトップとなりました。次いで、女性は「肩こり」「イライラしやすい」、男性は「イライラしやすい」「やる気が出ない」が上位に挙がり、多様な不調を感じていることがわかります 。

●4人に1人の男性が「男性更年期」を知らない

「男性更年期」という言葉自体の認知度も課題です。男性の4人に1人(24.3%)が「知らない」と回答しており、そもそも自身の不調を更年期と結びつけて考えにくい状況がうかがえます。

●対策は「何もしていない」が最多

また、何らかの不調を自覚している方に、それらの症状について何か対策をしているか尋ねたところ、具体的な対策については「何もしていない」という回答が男女ともに最も多く、特に男性では約半数(46.3%)に上りました 。

では、戸惑いの多いこの時期をどう乗り越えればよいのでしょうか。10月18日の「世界メノポーズデー(※1)」を前に、女性のヘルスケア専門医・高尾美穂先生に、心と体を整えるヒントをお伺いしました。

高尾 美穂(たかお みほ)先生 写真

男女で違う「更年期」の現れ方、対策は?

「更年期」とひとくくりにされがちですが、実は男女では大きな違いがあるそうです。
「まず女性の更年期とは、閉経を挟んだ前後5年、合計10年間を指します。この時期は女性ホルモン(エストロゲン)が大きく揺らぎながら低下し、やがて分泌されなくなります。その結果、ほてりや発汗、動悸といった自律神経の不調に加え、肌の乾燥、関節痛、骨がもろくなるなどの変化が起こります。これらが複雑に絡み合っているのが女性の更年期の特徴です」と、高尾美穂先生

一方で、最近耳にすることの多い「男性の更年期」は、事情が異なるといいます。
「医学的にはLOH症候群と呼ばれてきました。加齢や強いストレスなどによって男性ホルモン(テストステロン)の値が、その年代の平均よりも大きく落ち込んでしまう状態が社会的な課題となってきています。すべての男性が経験するわけではありませんが、イライラしやすくなったり、意欲が低下したりといった不調が出やすくなります」

では、この変化の時期をどう過ごせばよいのでしょうか。
高尾先生は「男女に共通して大切なのは、不調を“年のせい”と片付けないことです。ご自身の心と体の変化のサインとして受け止め、早めにケアを始めることが大切」と強調します。特に女性において、更年期は太りやすくなる時期でもあり、肥満は症状を悪化させるリスクがあるとされています。そのため、まずは「適正体重を維持すること」が、心地よく過ごすための第一歩になるそうです。

「イライラ」「落ち込み」…、原因はセロトニン低下かも

更年期によく見られる「イライラ」や「気分の落ち込み」。その背景には、“幸せホルモン”とも呼ばれる脳内物質「セロトニン」が関わっています。
「女性ホルモン(エストロゲン)には、セロトニンの生成をサポートする働きがあります。そのため、更年期にエストロゲンが急激に減少すると、セロトニンが作られにくくなり、精神的に不安定になりやすいとされています」と高尾先生。

一方、男性の場合は、加齢やストレスによる男性ホルモン(テストステロン)の低下が気分の落ち込みや意欲低下につながることがあり、結果として心の不調を感じやすくなるわけです。

心の安定に欠かせないセロトニンですが、その材料となる必須アミノ酸・トリプトファンは体内で作ることができません。さらに、セロトニンを効率よく生成するには、ビタミンB6と炭水化物も必要です。そのため、男女問わず、これらを食事からバランスよく摂ることが欠かせません。

朝のバナナが夜の眠りを整える

そこで高尾先生が注目する食材のひとつが「バナナ」です。
バナナには、セロトニンの生成に必要なトリプトファン、ビタミンB6、炭水化物の3つの栄養素がバランスよく含まれています。さらに重要なのが、食べるタイミング。「朝に食べることが鍵」だと高尾先生は話します。

「朝食のバナナから得たトリプトファンは、日中にセロトニンへと変わり、夜になると睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニンに変化します。つまり、朝のバナナがその夜の快眠を準備してくれるのです。これは男女共通のメカニズム。ぐっすり眠れると翌日の心も安定しやすくなります。こうした良いリズムを作ることが、更年期の不調を和らげる上でとても大切なのです」

高尾 美穂(たかお みほ)先生 写真

今日からできる!高尾先生おすすめ「バナナ習慣」

高尾先生は、更年期を少しでも心地よく過ごすために、毎日の食生活にバナナを取り入れることを提案します。

■朝は「バナナ+ヨーグルト」で心と骨をケア

「特におすすめなのが、朝食でのバナナとヨーグルトの組み合わせです。眠りの質を整えるだけでなく、ヨーグルトのカルシウムとバナナに含まれるマグネシウムは、どちらも骨の健康に欠かせないミネラル。女性ホルモンの減少で骨がもろくなりやすい時期だからこそ、特に女性には意識して摂っていただきたい組み合わせです」

■運動前は「お守りバナナ」でエネルギーチャージ

「空腹のまま運動をすると、体はエネルギー源として自分の筋肉を分解してしまいます。運動前にバナナを1本食べておけば、筋肉を守りつつ動くためのエネルギーを効率よく補給できます。おにぎりほど重くなく、手軽に食べられるのも魅力です」

「バナナは甘いからカロリーが高くて太りそう」と心配する声もありますが、それは誤解です。バナナ1本(約100g)あたりのカロリーは約93kcal。ご飯を茶碗に軽く1杯(約100g・約156kcal)や食パン1枚(6枚切り・約60g・約149kcal)と比べても、実は低カロリー(※2)です。満足感や腹持ちの良さ、さらにセロトニンの材料となるトリプトファンを手軽に補給できることを考えれば、更年期世代にとってむしろ賢い選択といえるでしょう。

高尾先生も「カロリーを過度に気にするよりも、毎日続けられる手軽さで、心と体に必要な栄養をきちんと摂ること。そのメリットを大切にしてほしいですね」と話します。

更年期は、自分をいたわる新しいスタートライン

「私たちの体は、食べたもので作られています。今日、何気なく口にするものが、10年後の自分を作るのです」と、高尾先生。

高尾 美穂(たかお みほ)先生 写真

「更年期は人生をトップスピードで駆け抜ける時期ではなく、少しペースを緩めてこれからの生き方を見直す曲がり角です。この先の30年、40年をどう健やかに過ごすか。そのために、食事をはじめとする生活習慣を一度見直し、できそうなことから取り入れてみてください。更年期は、その大切なきっかけになるはずです」

その第一歩としておすすめなのが、毎日のセルフケアにバナナを取り入れること。心の安定に必要な栄養を補い、調理いらずで続けやすいバナナは、更年期世代の強い味方になってくれます。まずは1日1本。手軽でおいしいバナナから、自分をいたわる新習慣を始めてみましょう。

※1:更年期の健康に関わる情報を全世界へ提供する日として1999年に国際閉経学会において定められました。
※2:カロリー数値は日本食品標準成分表(八訂)をもとにした目安です。サイズや種類により数値は多少異なります。

【高尾先生プロフィール】

高尾( たかお 美穂みほ ) 先生

イーク表参道副院長、医学博士、産婦人科専門医、スポーツドクター。東京慈恵会医科大学大学院にて博士号(医学)を取得。同大学病院の産婦人科勤務などを経て、現職に至る。
産婦人科医として、女性の健康を生涯にわたってサポートすることを天職とし、医療の観点だけでなく、ヨガやスポーツなど多角的なアプローチで情報を発信。その分かりやすく、親しみやすい解説が多くの女性から支持を得ており、テレビ、ラジオ、雑誌、SNSなど、幅広いメディアで活躍している。
主な著書に『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『「自分が主役」で生きたらいいじゃん 頑張ってきたあなたに贈る80の言葉』(扶桑社)など多数。