世界の中でも鉄不足が顕著な「貧血大国」日本。バナナを食べることで、肥満者特有のメカニズムが引き起こす“隠れ貧血”リスクの低減に期待。 臨床試験により、バナナの長期摂取による日本人肥満者における貧血抑制効果の可能性を確認

日本バナナ輸入組合(所在地:東京都千代田区内神田1-3-1 トーハン第3ビル2階、理事長:ケナード・ウォング、以下「当組合」)では、赤坂ファミリークリニック院長・東京大学医学部附属病院医師の伊藤明子先生らの研究グループが行った臨床試験の結果、バナナの長期摂取により日本人肥満者における貧血抑制効果の可能性が確認できたことをお知らせします。

本試験は、2021年11月初旬から12月初旬にかけて実施されたもので、この度、本臨床試験の論文が『薬理と治療』2022年5巻(5月28日発売)にて掲載されました。(Japanese Pharmacology and Therapeutics, vol. 50, no. 5, 2022, 855-863)

「貧血大国」と言われる日本。痩身の女性だけでなく、実は肥満の方にも隠れた貧血リスクが!
コロナ禍でさらに注目される国民的フルーツ『バナナ』の健康効果と、日本人肥満者の貧血との関係性について検証。

1.本臨床試験の背景

血中の鉄欠乏によって引き起こされる「貧血」ですが、日本の鉄欠乏者率は30~48%となっており、世界の中でも日本は「貧血大国」と言われています※1。鉄が不足すると、動悸や息切れ、だるさ・疲労感といった症状から、集中力の低下や情緒不安定などに陥ることがあり、鉄を効果的に摂取することは、健康な生活を送る上で非常に重要となっています。

しかし、日本における鉄摂取量は1955年からのデータでも改善することなく、低値のまま推移しており、特に女性では、日本の女性の摂取必要量が一日12㎎のところ、2001年以降8㎎から改善していない状況にあります※2。また最新の研究では、肥満者においても鉄が不足し貧血リスクが高いことがわかっており※3、鉄の低下には注意すべきであると言えます。

本試験は、バナナの長期摂取とBMI 24以上の肥満者の貧血との関係性について臨床試験を行ったものです。バナナの健康効果については、これまでも消化促進作用や抗酸化作用、免疫力を高める作用など多岐にわたる分野の研究が発表されており、ヒトにおいても複数の研究が行われています。しかし、日本人肥満者を対象とした同様の臨床試験は今までに例がないものとなります。

当組合が2005年から毎年実施している「バナナ・果物消費動向調査」では、17年間連続で『よく食べる果物』の第1位にバナナが選ばれており、コロナ禍で健康志向が高まるなか、バナナの健康効果がますます注目を集めています。そんな国民的フルーツとも言えるバナナの新たな健康効果を探った本研究の概要は以下の通りです。

2.本臨床試験の概要

25歳以上45歳未満の明らかな疾病のないBMIが24以上の男女31名をバナナ摂取群(バナナを生で1日に可食部120g摂取)とバナナ非摂取群(通常の食事のまま)の2群にランダム化して分け、4週間の摂取期間の前と後の、血液検査、理学検査(体重、BMI)、血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)、脈拍数、自覚所見(生活日誌など)、問診を実施。その結果を解析した臨床試験を行いました。

肥満者の脂肪組織から分泌される炎症性物質が原因で、鉄の吸収がブロックされてしまい貧血に。
バナナ摂取により、血清鉄・フェリチン(貯蔵鉄)の低下抑制の効果が期待。

3.本臨床試験結果の主なポイント

「肥満であること」が引き起こす貧血リスクに、抑制効果が期待できる

image 図①:肥満者における貧血の機序※3
脂肪組織から炎症性物質が分泌➡肝臓からヘプシジンが分泌➡ヘプシジンが、細胞に鉄を取り込むトランスポーターをブロック➡鉄が細胞の中に入れない➡貧血

一般的に、貧血の主な原因として日常的な鉄の摂取量が少ないことが挙げられますが、肥満者においては、それとは別の理由として、「肥満であること」自体が、腸管細胞から鉄を吸収しにくい状況を引き起こし、鉄欠乏ならびに貧血の一因となっていることが、最新の研究で分かってきています。これまで、肥満者においては加工食品や炭水化物などの摂取が多いために、鉄を含む食材の摂取量が少ないことが貧血リスクに繋がっていると捉えられてきましたが、近年では、肥満者の脂肪組織から分泌された炎症性物質に応じ、ヘプシジンというホルモンが肝臓から分泌されることで、ヘプシジンが腸管細胞内で鉄を取り込む役割を果たしているトランスポーターをブロックしてしまい、結果として鉄が細胞に吸収されずに貧血になってしまうことが複数の研究で提示されています※3(図①)。

こうした、肥満者特有のメカニズムで引き起こされた貧血リスクは、本試験結果にも表れており、いずれも貧血の指標として用いられるヘマトクリット値、MCV、MCHCにおいて下記の結果が得られました。

・血液全体に占める赤血球の割合であるヘマトクリット値が、バナナ非摂取群で低下傾向が見られました。
・平均赤血球容積を示すMCVは、バナナ摂取群と非摂取群の両群ともに有意に低下が見られました。これは小球性貧血の可能性を示しています。
・赤血球の細胞内のヘモグロビンの濃度を示すMCHCは、両群で有意に上昇が見られました。これはMCVが両群で低下したことから、赤血球細胞の容積減少にともない、細胞内での濃度が上昇したことが考えられます。

バナナ非摂取群で、貧血を示す数値の低下・上昇が見られたことは、つまり「肥満者は普通に生活しているだけで、鉄欠乏を引き起こしている」ことを示していると言えます。

一方、本試験では、バナナの長期摂取による日本人肥満者における貧血抑制効果の可能性を示唆するデータとして、バナナ摂取群と非摂取群で下記の差異が見て取れました。

・血清鉄(血液中に存在する鉄)は、非摂取群で有意に低下した一方、バナナ摂取者では低下は見られませんでした。これは肥満者における鉄の低下を、バナナ摂取が抑制した可能性が考えられます。
・貯蔵鉄であるフェリチンは、バナナ摂取群のフェリチンが70から75ng/mLへ変化したのに対し、非摂取群は79から70ng/mLに低下するなど群間差で有意差が示されました。フェリチンはたんぱく質でできた籠のような構造の中に鉄を含み、体内で鉄需要が高まると、最初にフェリチンの鉄が使われます。バナナ摂取により、鉄の低下が抑制されたことを示しています。

ヘモグロビン値は正常を示していても、フェリチン値が低下している状況は、鉄欠乏性貧血に至る前の「潜在的鉄欠乏状態」と言えます。肥満者においては、前述の肥満者特有のメカニズムにより、このフェリチン値が低下した“隠れ貧血”の状態になりやすいリスクをはらんでいると言えます。そしてそのリスクを、バナナ摂取により抑制する可能性があることを示唆しています。

<研究チームによる考察>

今回、日本の肥満者において鉄欠乏がバナナ摂取によって改善されたことは、バナナの鉄含有量は可食部100gあたり0.3㎎と微量であることを考慮すると、バナナ摂取による直接的な鉄の増加とは考えにくく、バナナに含まれるビタミンC、ビタミンB6、葉酸など鉄吸収を促進する微量栄養素により鉄吸収が促進されたのではないかと考えられます。

また、バナナの食物繊維により腸内環境が改善されたことにより、腸管細胞での微量栄養素の吸収が上がり、ヘプシジンによる腸管細胞での鉄吸収阻害が幾分でも抑制された可能性も考えられます。

バナナの長期摂取により腹囲が減少

肥満と関連して、バナナ摂取による腹囲への影響を測定したところ、下記の通り有意差が見られました。

・バナナ摂取群では、腹囲の減少傾向が見られました。バナナを4週間摂取することで、腹囲が平均で約1.5cm減少しました。
・非摂取群では腹囲が平均約0.5cm増加しました。

バナナ摂取群で腹囲の減少傾向を示したことは、内臓脂肪面積への有意な作用は見られなかったものの、バナナに含まれるビタミンB6によるたんぱく質代謝の促進や、食物繊維による皮下脂肪の減少などの可能性が考えられます。

※1 WHO The Global Prevalence of Anemia, 2011
※2 わが国の女性の鉄摂取量の年次変化。平成20年国民健康栄養調査報告(厚生労働省)
※3 出展元:下記4論文

  • Shubhra Pande, Rajeev Ranjan, Valentina A. Kratasyuk, Is Body Mass Index a potential biomarker for anemia in obese adolescents? Journal of Nutrition & Intermediary Metabolism. 2019; 15: 1-2.
  • Karlee J. Ausk and George N. Ioannou. Is Obesity Associated With Anemia of Chronic Disease? A Population-based Study. Obesity. 2008; 16(10)
  • Alshawaiyat NM, Ahmad A, Hassan WMNR, Al Jamal HAN. Association between obesity and iron deficiency (Review). Experimental And Therapeutic Medicine. 2021; 22: 1268
  • Cepeda-Lopez An, Melse-Boonstra Al, Zimmermann MB, Herter-Aeberli I. In overweight and obese women, dietary iron absorption is reduced and the enhancement of iron absorption by ascorbic acid is one-half thn that in normal-weight women. The American Journal of Clinical Nutrition. 2015;102 (6):1389-97.

伊藤 明子先生 のプロフィール

伊藤( いとう 明子みつこ ) 先生

赤坂ファミリークリニック院長・東京大学医学部附属病院小児科医
小児科医、社会医学系専門医(公衆衛生の専門医)。

東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。NPO法人Healthy Children,HealthyLives代表理事。

有限会社アクエリアス代表取締役社長(同時通訳・国際会議運営)、同時通訳者、医学系学会での会議通訳、米国大統領をはじめ多々の国賓の通訳に従事。東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科卒。近著に「医師がすすめる抗酸化ごま生活」アスコム。2児の母。多数のテレビに出演、雑誌メディア掲載。

その他のバナナの栄養素と機能について

バナナには、多彩に含まれる栄養成分の働きやその構成によって、「ダイエット効果」など、現代人に求められる様々な健康機能が期待できます。

期待される健康作用 関連する栄養素・内容
整腸作用 バナナに含まれる食物繊維・難消化性デンプンが腸の働きを整えます。特に「青めのバナナ」にその機能が顕著に期待されます。
代謝促進作用 バナナはカリウムを豊富に含んでいます。このカリウムには、高血圧の原因となるナトリウムや老廃物を尿とともに体外へ排出させる作用が期待されます。汗や尿でナトリウムが排出されるとき、カリウムも同時に排出されますが、バナナ1本で360㎎のカリウムを補給できます。
運動時の効果的な
エネルギー補給
バナナにはブドウ糖、果糖、ショ糖、デンプン、難消化性デンプンなど吸収される速度の違う糖が含まれており、運動前、中、後と時間差で体にエネルギーを補給します。アスリートにとってバナナは頼もしいサポート食品です。
アタマのエネルギー源 脳の直接的なエネルギーとなるのはブドウ糖だけですが、特に黄色バナナには即効性のあるブドウ糖と、それを持続的に供給するスクロースやデンプンが含まれています。脳は就寝中でもブドウ糖を消費し続けるため、朝起きた時にはエネルギー不足。バナナは、栄養があるだけでなく手軽に食べられるので、忙しい朝にも最適な食べ物です。
脂肪燃焼作用

バナナに含まれるビタミンB類や必須アミノ酸には、脂肪燃焼を促進する働きがあるものがあります。バナナはダイエット食品としても注目されています。特に昨今では「朝バナナダイエット」が話題になり、多くの人に実践されています。

≪100gあたりのエネルギー≫93kcal
「カロリーが高い」と思われがちなバナナですが、バナナは1本(可食部100g)で93kcal。
ごはん1杯(150g)234kcalや食パン1枚(80g)198kcalと比べても、意外と低カロリーです。

免疫力 バナナには免疫力を高める効果が期待されます。特に「茶色バナナ」でその機能が顕著に期待されます。